Policy & Data
高付加価値旅行者High-value Travelers
観光庁の政策で用いられる区分で、1回の訪日旅行で、航空券などを除いた日本国内での消費(着地消費)が1人あたり100万円以上の外国人旅行者を指す。いわゆる訪日富裕層。
この用語の要点
- 観光庁の定義は「着地消費100万円以上/人の訪日外国人旅行者」。年間ではなく1回の旅行あたりの額
- 2019年の推計で、訪日外国人旅行者全体の約1%(29万人)ながら、消費額の約11.5%(5,523億円)を占めた。ただし大都市圏での買物消費が多く、地方での消費は少ない
- 国は「ウリ・ヤド・ヒト・コネ+アシ」の5つの観点で地方への誘客を進め、2023年3月にモデル観光地11地域を選定した
- 求められているのは豪華さより「希少で特別な体験」と、その本質を伝えられる人。地域の小さな事業者が関われる余地は大きい
- 多くは旅行会社・トラベルデザイナー経由で旅を組むため、届く経路はランドオペレーターなどB2Bのルートが中心になる
高付加価値旅行者とは:観光庁の定義
高付加価値旅行者は、観光庁がインバウンド政策の中で使っている言葉です。観光庁の発表資料では、「着地消費100万円以上/人の訪日外国人旅行者」と注記されています。
ここでの「着地消費」は、日本に着いてから使うお金のことです。日本までの航空券など移動の代金は含めず、宿泊・飲食・交通・ガイド・体験・買い物など、日本国内で支払った額で見ます。また、年間の合計ではなく、1回の旅行あたりの額です。
一般に「訪日富裕層」「ラグジュアリー層」と呼ばれる層とほぼ重なりますが、政策文書では資産額ではなく旅行中の消費額で線を引いている点が特徴です。
数字で見る規模と、国が注目する理由
観光庁が2023年3月に公表した資料によると、2019年時点で高付加価値旅行者は訪日外国人旅行者全体の約1%(29万人)に過ぎないものの、消費額の約11.5%(5,523億円)を占めていました。
同じ資料は課題も指摘しています。高付加価値旅行者の消費は大都市圏での買物消費等が多く、地方での消費が少ない。だからこそ地方への誘客を促すことで、地方創生への貢献が期待される、という整理です。
この考え方に基づき、観光庁は2022年5月に「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりアクションプラン」を取りまとめ、2023年3月には集中的に支援するモデル観光地として11地域(東北海道、八幡平、那須及び周辺地域、松本・高山、北陸、伊勢志摩及び周辺地域、奈良南部・和歌山那智勝浦、鳥取・島根、せとうち、鹿児島・阿蘇・雲仙、沖縄・奄美)を選定しました。
| 観点 | 内容(観光庁資料の整理) |
|---|---|
| ウリ | 高付加価値旅行者のニーズを満たす滞在価値 |
| ヤド | 地方部の高付加価値な宿泊施設 |
| ヒト | 地方への送客、ガイド、ホスピタリティ |
| コネ | 海外の高付加価値層とのネットワーク、情報発信 |
| アシ | 交通・移動(資料では「+アシ」として4つに加えた観点) |
「富裕層=贅沢」ではない:何が求められているか
高付加価値旅行者というと、高級ホテルや豪華な料理を思い浮かべがちです。しかし観光庁の検討資料が「ウリ」の課題として挙げているのは、「希少で特別(『今だけ・ここだけ・あなただけ』的)な体験」を選び抜いて商品に仕立てる工夫と、旅行者の価値観や知的関心に沿った見せ方(物事の本質を伝える工夫)の不足でした。
同じ資料では、高付加価値旅行に精通したトラベルデザイナーを地域に派遣した事業(令和2年度)で指摘された点が紹介されています。
- 食文化体験では、旅館の料理人と調理するより、地元の人と一緒に料理するなど交流の演出が有効
- 醸造所見学は、案内係ではなく職人(杜氏)やオーナー自らが案内すると特別感が出る
- 寺社の特別案内には、宗教の概念や歴史を語れる高度な知識を持ったガイドが不可欠
- アウトドア体験には、その土地の文化的なストーリーを重ねると欧米豪の関心が高い
どれも設備投資ではなく、誰が・どう語るかの話です。地域の小さな事業者や職人が、そのまま「ウリ」の担い手になれることを示しています。
どの経路で届くのか
高付加価値旅行者の多くは、自分でOTAを検索して予約するより、信頼できる旅行会社やトラベルデザイナーにオーダーメイドで旅を組んでもらう形をとります。そのため、地域の事業者に届く経路は、海外の旅行会社 → ランドオペレーター → 地域の事業者、というB2Bのルートが中心になります。
観光庁の資料は「コネ」の課題として、世界的な高付加価値旅行コンソーシアム(旅行会社のネットワーク組織)などの有力なコミュニティへのコネクション力の不足を挙げています。個々の事業者が単独でそこに食い込むのは難しく、旅行会社・ランドオペレーター・DMO(観光地域づくり法人)との連携が前提になります。
富裕層向けの体験を作ったけれど、OTAに載せても全く予約が入らない。
こうした場合、商品の良し悪しより先に「届く経路を間違えている」可能性があります。
地域の事業者が準備すること
- 体験の「本質」を言葉にする: 何が希少なのか、なぜここでしかできないのか、誰が語るのかを、英語で説明できる形にまとめる
- プライベート対応の条件を決める: 貸切の可否、1組あたりの人数、時間の融通、通常回とは別の料金
- プロダクトシート(商品提案書)とタリフを用意する: 旅行会社が提案に使えるよう、NET価格・所要時間・受け入れ条件・キャンセル規定を明記する
- 細かな要望への対応範囲を明確にする: 食の多様性対応(アレルギー・宗教食)(アレルギー・宗教食)、移動の手配、写真撮影の可否など、「できること・できないこと」を先に示す
- 地域内でつなぐ: 1軒で完結させず、宿・ガイド・移動を組み合わせた滞在として提案できるよう、近隣の事業者と連携する
高付加価値旅行者の受け入れで評価が下がる典型は、予約後の問い合わせに答えられない、当日の段取りが崩れる、といった運営面のつまずきです。価格を上げる前に、運営の確実さを整えることが先になります。
よくある誤解
「100万円の商品を作らないと対象にならない」わけではありません。 100万円は旅行1回で日本国内に落とす総額の目安です。数千円〜数万円の体験でも、旅程の一部として選ばれれば、その旅行者の消費の一部を担うことになります。
「高級=価格を上げればよい」ではありません。 前述のとおり、求められているのは希少性と本質の伝え方です。中身が変わらないまま価格だけ上げても、旅行会社は提案できません。
「地方には関係ない」は逆です。 国の施策そのものが、大都市に偏っている消費を地方へ広げることを目的にしています。
よくある質問
高付加価値旅行者の「100万円」には航空券も含まれますか?
観光庁の発表資料では「着地消費100万円以上/人」と注記されており、日本に着いてからの消費で見る定義です。航空券など日本までの移動代金は含みません。また年間ではなく、1回の旅行あたりの1人の消費額です。
高付加価値旅行者は、訪日客の中でどのくらいの割合ですか?
観光庁の2023年3月の資料では、2019年時点で訪日外国人旅行者全体の約1%(29万人)、消費額では約11.5%(5,523億円)と示されています。人数は少なくても消費額への影響が大きい層です。最新の推計は観光庁・JNTOの公表資料で確認してください。
モデル観光地に選ばれていない地域でも、受け入れる意味はありますか?
あります。モデル観光地は国が集中的に支援する地域ですが、高付加価値旅行者が訪れる先がそこに限られるわけではありません。希少な体験と確実な運営があり、旅行会社やランドオペレーターに知られていれば、旅程に組み込まれる可能性はあります。
英語が話せないと、高付加価値旅行者は受け入れられませんか?
職人やオーナー自身が語る体験には価値があり、通訳ガイドと組むことで対応できる場面は多くあります。観光庁の資料でも、文化や歴史を深く伝えられるガイドの不足が課題とされています。自分が話すことより、伝える内容を整理し、適切なガイドと組む体制をつくることが大切です。
関連する用語
出典・参考
- 観光庁 報道発表「高付加価値旅行者の誘客に向けて集中的な支援等を行うモデル観光地11地域を選定しました」(令和5年3月28日) — 定義(脚注: 着地消費100万円以上/人の訪日外国人旅行者)、2019年に約1%(29万人)・消費額の約11.5%(5,523億円)、ウリ・ヤド・ヒト・コネ+アシ、モデル観光地11地域(p.1〜3)
- 観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり」検討委員会 資料2「検討をお願いしたい事項」 — ウリの課題(希少で特別な体験・本質を伝える見せ方)、トラベルデザイナー地域派遣事業での指摘例、ヒト・コネの課題(p.3〜5)
公開 2026.10.09 / 執筆: 一般社団法人Kachisai 事務局。定例会で会員事業者から受けた質問と、上記の一次情報をもとに作成しています。内容の誤りや古くなった情報はお問い合わせからお知らせください。
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