Pricing & Terms
ダイナミックプライシングDynamic Pricing
需要の大小や予約の入り具合、時期・曜日・時間帯などに応じて、同じ商品・サービスの価格を細かく変える価格設定の手法。売上を最大化する考え方であるレベニューマネジメントの中で、価格を動かす役割を担う手段の一つ。
この用語の要点
- 価格を固定の定価にせず、需要に合わせて動かす手法。レベニューマネジメント(売上最大化の考え方全体)のうち「価格を動かす」部分にあたる
- 観光庁は2026年4月に「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会」を立ち上げ、料金の役割を「過度の混雑のコントロール」と「観光資源の保全・活用の財源確保」の2つに整理している
- 銀山温泉のシャトルバスでは時間帯別運賃(800円/500円/1,000円)を実証したが、分散効果は限定的とされた。価格だけで人の動きが大きく変わるとは限らない
- 旅行会社・ランドオペレーターとの取引は1年単位の固定NET価格が基本で、日々の値動きとは相性が悪い。動かすのはOTA・直販側にとどめ、タリフには時期区分を事前に書いておく
- 始める前に、動かす幅の上限・下限と、旅行会社に渡したNET価格を下回らない線を決めておく
ダイナミックプライシングとは
航空券の値段が予約のタイミングで変わる、ホテルの1泊料金が週末と平日で違う——これがダイナミックプライシング(Dynamic Pricing、変動価格制)です。需要が多いときは高く、少ないときは安く、価格を状況に応じて動かす手法を指します。
似た言葉にレベニューマネジメントがあります。レベニューマネジメントは、需要予測をもとに価格・販路ごとの枠・商品設計まで含めて売上を最大化する考え方全体のこと。ダイナミックプライシングは、その中で「価格を動かす」部分を担う手段です。
動かし方には段階があります。
- 時期区分型: 繁忙期・通常期・閑散期など、あらかじめ決めた区分ごとに価格を設定する
- 時間帯・曜日型: 同じ日でも時間帯や曜日で価格を変える
- 変動型: 予約の入り具合を見ながら、日々(あるいはリアルタイムに)価格を変える
狭い意味では3つ目だけを指すこともありますが、地域の小さな事業者が現実的に使いやすいのは1つ目と2つ目です。
国の動き:観光庁の料金設定研究会と銀山温泉の事例
観光庁は2026年4月に「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会」を立ち上げ、7つの事例のヒアリング結果を2026年7月に「ヒアリング結果のポイント」として公表しました。研究会の座長コメントでは、料金の役割を2つに整理しています。
一つ目は、過度の混雑をコントロールする手段としての「料金」です。(中略)二つ目は、観光資源を保全・活用するための財源を確保する手段としての「料金」です。
ダイナミックプライシングに最も近い事例が、山形県尾花沢市の銀山温泉シャトルバスの時間帯別運賃です。冬期の温泉街の混雑対策として、2025年12月20日〜2026年3月1日に実証実験が行われました。
| 時間帯 | 実証前 | 実証中 |
|---|---|---|
| 9時〜11時 | 500円 | 800円 |
| 11時〜14時 | 500円 | 500円 |
| 14時〜18時 | 500円 | 1,000円 |
貸切観光バスが多く到着する午前と、夕暮れや夜景を見るために人が集中する14時以降の運賃を引き上げた設計です。結果は、14時以降の利用が依然として多く、時間帯別運賃による分散の効果は限定的とされました。一方で、増収分を使ってシャトルバスを1台増やし(2台→3台)、問い合わせ窓口も新設しています。
この事例が示すのは、その時間でなければ見られないものを目当てに来る人は、多少高くても来るということです。価格は人の動きを変える手段の一つですが、それだけで需要が動くとは限りません。同時に、増えた収入を受け入れ体制の改善に回すという、もう一つの役割は果たしています。
体験・宿の事業者にとっての意味
地域の体験プログラムや小さな宿にとって、ダイナミックプライシングの価値は値上げそのものより、需要の偏りを数字で捉えて価格に反映させる習慣にあります。
体験の1回あたりの定員や宿の客室は、その日に売れなければ取り戻せません。週末は毎回断っているのに平日は空いている、紅葉の2週間だけ予約が集中する——こうした偏りがある商品ほど、価格を動かす意味が大きくなります。
逆に、次のような場合は無理に動かす必要はありません。
- 予約の記録がまだ少なく、どの時期が埋まるのか分からない
- 売上の大半が旅行会社経由で、価格が1年単位で固定されている
- 価格を変えても原価は変わらず、案内や問い合わせ対応の手間だけが増える
週末に値上げしたら、口コミで「高い」と書かれないか心配だ。
もっともな心配です。口コミの評価は価格そのものより「その値段に見合う体験だったか」で決まります。高い日は少人数で行う、内容を一つ足すなど、価格の違いを説明できる中身の違いを用意すると納得されやすくなります。
旅行会社取引との相性:正直に言うと悪い
ダイナミックプライシングは、旅行会社・ランドオペレーターとの取引(上図の①)とは相性がよくありません。
旅行会社のツアーは、数か月〜1年前に価格を決めて販売します。そのため事業者はコンテンツタリフに1年単位の固定NET価格を載せるのが基本です。予約の入り具合で日々価格が変わる商品は、ツアーに組み込めません。
観光庁のヒアリング事例でも、岐阜県白川村が村営駐車場の料金を改定した際、旅行会社のツアー企画期間を考慮して、条例改正から施行まで約半年の周知期間を確保しています。価格を変えるときは旅行会社の販売サイクルに合わせ、早めに知らせることが前提になっていると分かります。
両立させるには、販路ごとに役割を分けます。
| 販路 | 価格の扱い |
|---|---|
| ①旅行会社経由 | タリフに時期区分(繁忙期・通常期・閑散期)を事前に書き込む。年度の途中は変えない |
| ②OTA | 時期・曜日で価格を調整しやすい。ただしタリフのGROSS(販売定価)との整合に注意 |
| ③直販 | 最も自由に動かせる。早期予約割引や空いている回の限定価格を試しやすい |
最も避けたいのは、OTAや直販の安い日の価格が、旅行会社に渡したNET価格に近づく、または下回ることです。旅行会社から見れば自社の販売価格より安く一般に売られていることになり、取引が止まる原因になります(関係はNET価格・GROSS価格)。下限価格は「NET価格に各販路の手数料を足した額」より下げない、と先に決めておくと事故を防げます。
始めるための手順
- 予約の記録をつける: 回ごと・日ごとの予約数、断った件数、問い合わせ数を表計算で残す。断った件数がないと、満席の日の需要の大きさが分からない
- 偏りを見つける: 3か月〜1年分の記録から、毎回埋まる日・時間帯と、いつも空く日・時間帯を分ける
- 価格の幅を決める: 基準価格に対して上限と下限を決める。下限は旅行会社向けのNET価格と各販路の手数料を踏まえて設定する
- 区分は少なく始める: 最初は「繁忙日・通常日」の2区分か、時間帯で2〜3区分程度にとどめる。日々変える方式は、記録と運用の手間に見合うか確かめてから
- お客様への見せ方を整える: 予約ページに日付別の価格を分かりやすく表示し、価格差の理由を一言添える。予約後に同じ日の価格が下がった場合の扱いも事前に決めて明記する
- 1〜2シーズン試して比べる: 売上だけでなく、稼働率・口コミ・問い合わせの変化を前の期間と比べる
OTAで日付別・時間帯別の価格を設定できるかどうか、どう表示されるかはサービスごとに異なります。掲載先の管理画面やヘルプで確認してください。
よくある誤解
「ダイナミックプライシング=値上げ」ではありません。 需要の少ない日に価格を下げて人を呼ぶのも同じ手法の一部です。銀山温泉の事例でも、11時〜14時の運賃は据え置きでした。
「システムがないとできない」わけでもありません。 時期区分や時間帯区分なら、料金表を分けるだけで始められます。価格を自動で変えるシステムは、在庫や販路が多くなった段階で検討すれば十分です。
「価格を動かせば需要が分散する」とは限りません。 観光庁のヒアリング事例でも、時間帯別運賃による分散効果は限定的でした。混雑が課題なら、予約制や定員の見直し、空いている時間帯の魅力づくりと組み合わせて考えます。
よくある質問
小さな体験事業者でも、ダイナミックプライシングを使う意味はありますか?
予約が特定の日や時間帯に偏っているなら意味があります。ただし日々価格を変える必要はなく、繁忙日と通常日の2区分程度から始めるのが現実的です。まず断った件数を含めた予約記録を数か月分つけ、偏りがあるかを確かめてから判断してください。
旅行会社に出しているタリフの価格も、時期によって変えてよいですか?
時期区分(繁忙期・通常期など)を事前にタリフへ書き込んでおくのは一般的な方法です。避けたいのは、年度の途中で予告なく価格を変えることです。旅行会社は数か月〜1年前にツアー価格を決めるため、変更する場合は次の契約期間に向けて早めに伝えるのが基本です。
予約した後に同じ日の価格が下がったら、差額はどうすればよいですか?
扱いは事業者が定めるルールと、予約時に示した条件によります。トラブルを避けるには、差額の扱いを事前に決めて、予約ページやキャンセルポリシーと同じ場所に明記しておくことです。消費者との契約条件の判断に迷う場合は、消費生活センターなどの公的な相談窓口や専門家に確認してください。
日によって価格が違うと、お客様に不公平だと思われませんか?
宿泊料金や航空券のように、価格が日によって違うこと自体は旅行者にとって見慣れた仕組みです。不満が出やすいのは、理由が見えないときや、同じ内容なのに差が大きいときです。繁忙期であること、少人数で行うことなど、価格差の理由を予約ページに一言添えておくと納得されやすくなります。
関連する用語
出典・参考
- 観光庁「ヒアリング結果のポイント」(観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会、令和8年7月) — 座長コメント(料金の2つの役割)、銀山温泉シャトルバスの時間帯別運賃(p.6・実証期間・運賃・分散効果は限定的・バス1台増)、白川村駐車場料金改定の約半年の周知期間(p.4)
- 観光庁「観光施設・サービス等の料金設定等に関する調査・研究会」 — 研究会の開催経過(第1回 令和8年4月27日〜第4回 7月14日)と各事例の発表資料
公開 2026.10.16 / 執筆: 一般社団法人Kachisai 事務局。定例会で会員事業者から受けた質問と、上記の一次情報をもとに作成しています。内容の誤りや古くなった情報はお問い合わせからお知らせください。
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