Policy & Data
オーバーツーリズムOvertourism
観光客が一部の地域や時間帯に集中することで、過度の混雑やマナー違反が起き、地域住民の生活への影響や旅行者の満足度の低下が生じる状態。観光庁は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制」として、集中の緩和と地方部への誘客を進めている。
この用語の要点
- 問題の本質は観光客の「総数」ではなく「偏り」。特定の地域・時間帯・時期への集中が混雑とマナー問題を生む
- 政府は2023年10月18日、観光立国推進閣僚会議で「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定した
- パッケージの柱は①混雑・マナー違反への対応 ②地方部への誘客の推進 ③地域住民と協働した観光振興 の3つ
- 空いている時間帯・時期・場所への誘導・分散と、地方部への誘客は、地方の事業者にとって受け皿になる機会でもある
- 受け入れる側の地方も、人数上限やルールを先に決めておかないと、同じ問題を小さな規模で抱えることになる
オーバーツーリズムとは:「多すぎる」より「偏りすぎる」
オーバーツーリズムは、観光客が増えすぎて地域に負担がかかる状態を指す言葉です。観光庁は状況を「観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度低下への懸念が生じています」と説明しています。
ここで押さえておきたいのは、問題は日本全体の観光客数ではなく、その偏りだという点です。同じ日に同じ寺、同じ路線バス、同じ撮影スポットに人が集まると、そこでは住民の通勤や買い物に支障が出て、旅行者自身も「混んでいて楽しめなかった」と感じます。一方で、少し離れた地域では観光客がほとんど来ていない、ということが同時に起きています。
具体的には次のような現象がよく挙げられます。
- 路線バスや電車が観光客で満員になり、住民が乗れない
- 私有地への立ち入りや、無断での撮影
- ごみのポイ捨て、騒音
- 人気スポットの長い待ち時間による満足度の低下
国の対策パッケージ(2023年10月)
政府は2023年10月18日、観光立国推進閣僚会議で「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定しました。柱は3つです。
| 柱 | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応 | 交通手段や観光インフラの充実、入域管理や需要に応じた運賃設定、空いている時間帯・時期・場所への誘導・分散、旅マエからのマナー啓発 |
| 2. 地方部への誘客の推進 | 地方部の観光地の魅力向上と受入環境整備により、都市部を中心とした一部地域への集中を是正し、地方誘客を拡大 |
| 3. 地域住民と協働した観光振興 | 住民を含めた地域の関係者の協議にもとづく計画づくりと取組への支援、観光庁への相談窓口の設置 |
1の中には、混雑状況の可視化やリアルタイム配信、空いている観光ルートの提案による誘導、文化財や美術館を早朝・夜間に体験する特別プログラムなど、「時間と場所をずらす」ための施策が多く含まれています。
2では、地域のコアバリューを磨き上げて滞在価値を高める高付加価値な観光地づくりや、自然・文化・食・スポーツなどの分野で特別な体験を創出することが挙げられています。
観光庁はこのパッケージにもとづき、先駆的な地域の取組事例集、訪日旅行者向けのマナー啓発動画、自治体・DMO向けの相談窓口などを用意しています。
地方の事業者にとっての意味:追い風と、備え
オーバーツーリズムは都市部の問題に聞こえますが、地方の事業者にとっては無関係ではありません。対策パッケージは「地方部への誘客をより一層強力に推進し、全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んで行く」と明記しています。混雑した場所から人を分散させる先として、地方の宿や体験が求められているということです。
とくに、すでに日本を何度か訪れた旅行者や、混雑を避けたい旅行者は、有名な観光地以外の選択肢を探しています。周遊ルート(周遊ルート)に組み込まれたり、混雑地から足を延ばす日帰りの行き先として紹介されたりする機会は、分散の流れの中で生まれます。
ただし、受け入れる側にも備えが必要です。地方は交通の便が限られ、二次交通(駅や空港から先の移動手段)が細い地域も多くあります。小さな集落や自然の中の体験は、大都市より少ない人数で「混みすぎ」の状態になります。分散の受け皿になるなら、最初から受け入れの上限とルールを決めておくことが、自分たちの地域で同じ問題を起こさないための条件です。
事業者ができる実務
受け入れ人数と時間を設計する
- 1回あたりの定員と、1日あたりの受け入れ回数の上限を決める
- 予約制にして、当日の飛び込みで人数が膨らまないようにする
- 人気の時間帯だけでなく、早朝や夕方など空いている時間帯の枠をつくる
ルールを事前に伝える
- 撮影してよい場所、立ち入ってはいけない場所を、予約時の案内や現地の掲示で伝える
- ごみの持ち帰り、静かにしてほしい場所などを、外国語でも示す
- 旅行会社に渡すプロダクトシート(商品提案書)にも、ルールと定員を書いておく
住民と話しておく
対策パッケージが「地域住民と協働した観光振興」を柱の一つにしているように、受け入れが続くかどうかは住民の理解にかかっています。駐車場の使い方、通る道、時間帯など、近所や自治会と事前に話しておくだけで、後のトラブルを減らせます。地域のDMO(観光地域づくり法人)や観光協会が調整の場を持っていれば、そこに参加するのが近道です。
具体例と、よくある誤解
たとえば、混雑する観光地から電車で1時間ほどの町で、朝の散策ツアーを企画する場合を考えます。
- 時間: 有名観光地が混む昼を避け、朝7時からの2時間
- 定員: 1回6名まで。住宅地を通るため
- ルール: 民家の撮影は不可、集落内では大声を出さない
- 連携: 朝食は地元の喫茶店、帰りは駅前の土産店を案内
混雑地を避けたい旅行者には価値があり、地域にはお金が落ち、住民の生活への影響は小さく抑えられます。
うちの地域はお客さんが来なくて困っているのに、オーバーツーリズムなんて関係あるの?
こう感じる事業者は多いはずです。答えは、関係があるです。国が分散を進めるということは、これまで有名地に向かっていた旅行者の一部が、地方の選択肢を探し始めるということだからです。
よくある誤解は、「オーバーツーリズム対策=観光客を減らすこと」という理解です。パッケージが目指しているのは、観光客の受け入れと住民の生活の質を両立させることで、観光を止めることではありません。地域の資源を守りながら観光を続ける考え方はサステナブルツーリズム(サステナブルツーリズム)として整理されています。
よくある質問
オーバーツーリズムと観光公害は同じ意味ですか?
ほぼ同じ現象を指して使われることがありますが、観光庁の資料では「オーバーツーリズム」や「過度の混雑やマナー違反」という表現が使われています。「観光公害」は観光そのものを悪いものとする響きがあるため、地域の議論や企画書では、具体的に何が起きているか(混雑・マナー違反・住民生活への影響)を書くほうが話が進みやすくなります。
オーバーツーリズム対策の補助金を事業者が使うことはできますか?
観光庁はオーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた支援事業を行っていますが、地域の関係者による協議にもとづく計画が前提になることが多く、自治体やDMOが中心となって申請する形が一般的です。事業者単独で申請できるかどうかは年度ごとの公募要領で変わるため、観光庁の支援事業のページを確認し、地域の自治体やDMOに相談してください。
地方の小さな体験事業者でも、オーバーツーリズムに気をつける必要がありますか?
あります。小さな集落や自然の中の体験は、都市部よりずっと少ない人数で混雑や住民への負担が生じます。SNSで一度話題になると、短期間に人が集まることもあります。定員と予約制、撮影や立ち入りのルールを先に決めておけば、人気が出たときにも地域との関係を保ちながら受け入れを続けられます。
関連する用語
出典・参考
- 観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組」 — 状況の説明(一部地域・時間帯への集中、過度の混雑やマナー違反、住民生活への影響、旅行者満足度の低下)、対策パッケージ決定日、事例集・マナー啓発動画・相談窓口
- 観光立国推進閣僚会議決定「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」(令和5年10月18日) — 3つの柱(混雑・マナー違反への対応/地方部への誘客の推進/地域住民と協働した観光振興)、需要の分散・平準化の施策、「全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んで行く」の記述
公開 2026.10.13 / 執筆: 一般社団法人Kachisai 事務局。定例会で会員事業者から受けた質問と、上記の一次情報をもとに作成しています。内容の誤りや古くなった情報はお問い合わせからお知らせください。
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