Sales & Marketing
周遊ルートTouring Route
複数の観光地・宿・体験・食事処を、移動手段と所要時間を含めて一つの旅の流れとしてつないだ行程のこと。市町村や県の境を越えてつなぐものは「広域周遊ルート」と呼ばれ、地域を点ではなく面で売るための基本単位になる。
この用語の要点
- 旅行者は「一つの施設」ではなく「何日かけてどこを巡るか」で旅を選ぶ。周遊ルートはその選択肢の単位
- 国は2015〜2016年に、ゴールデンルート以外へ訪日客を広げるため全国11の「広域観光周遊ルート形成計画」を国土交通大臣認定した
- ルートは移動手段(二次交通)と所要時間が書けて初めて商品になる。点の魅力だけでは旅行会社は組めない
- 一つの施設しか持たない事業者でも、近隣の宿・体験・食と組んで半日〜1日の「部品」を用意すれば参加できる
- 地域の事業者同士が互いを案内し合う相互送客が、周遊ルートを実際に回す仕組みになる
周遊ルートとは:点を線にし、線を面にする考え方
周遊ルートは、文字どおり「周って遊ぶ道筋」です。A町の宿に泊まり、翌朝B村で農作業体験をし、昼はC市の食堂、午後は峠を越えてD温泉へ――というように、複数の観光地や施設を、移動手段と時間を含めて一続きの旅程にしたものを指します。
旅行会社やOTAの商品ページを見ると分かりますが、旅行者が買っているのは「施設」ではなく「旅程」です。どれほど良い体験でも、前後にどこへ泊まり、どう移動するかが描けなければ、旅程の中に置き場所がありません。周遊ルートを考えるとは、自分の施設を「旅程の中の一コマ」として見直すことでもあります。
特に市町村や都道府県の境を越えて組むものを「広域周遊ルート」と呼びます。訪日旅行者は行政区分を意識しないので、県境で旅が終わることはありません。地域を点(単独の施設)ではなく面(エリア全体)で見せるための単位が周遊ルートです。
国の「広域観光周遊ルート」とゴールデンルート
訪日旅行の定番は、東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪を結ぶ「ゴールデンルート」と呼ばれる行程です。初めて日本を訪れる人にとって分かりやすい一方、訪問先が大都市圏に集中する原因にもなってきました。
これに対して国は、テーマ性・ストーリー性を持った観光地のネットワークを、訪日外国人の滞在日数に合わせて形成する「広域観光周遊ルート形成促進事業」を進めました。自治体・観光関係団体・民間事業者などでつくる協議会が「広域観光周遊ルート形成計画」を策定し、国土交通大臣が認定する仕組みです。2015年6月に7ルート、2016年6月に4ルートが認定され、全国11ルートになりました。
| 認定年 | ルート名(抜粋) |
|---|---|
| 2015年 | ひがし北・海・道/日本の奥の院・東北探訪ルート/昇龍道/美の伝説/せとうち・海の道/スピリチュアルな島~四国遍路~/温泉アイランド九州 広域観光周遊ルート |
| 2016年 | 日本のてっぺん。きた北海道ルート。/広域関東周遊ルート「東京圏大回廊」/縁の道~山陰~/Be.Okinawa 琉球列島周遊ルート |
事業の名称や支援の形は年度によって変わっていますが、観光庁はいまも登録DMOや自治体向けに「広域周遊観光の促進」を掲げた専門家派遣などの支援を行っています。地域の事業者にとって大事なのは制度名よりも、「自分の地域がどの広域の物語に属しているか」を知っておくことです。商談会や旅行会社との会話で、その物語の名前が共通言語になります。
なぜ一つの施設だけでは売れないのか
定例会セミナーでは「個人戦からチーム戦へ」という言葉で、この問題を整理しました。
海外の旅行会社やランドオペレーターがツアーを組むとき、最初に考えるのは「何泊で、どこに泊まり、どう移動するか」です。地方の小さな体験事業者が単独で営業しても、「良さそうだが、その前後をどう組めばいいか分からない」と保留になりやすいのは、このためです。
逆に、近隣の宿・食事・移動手段まで含めて「この地域なら1泊2日でこう回れる」と示せれば、旅行会社はそのまま行程に落とし込めます。旅行会社の手間を減らした地域から選ばれる、というのが周遊ルートの実務上の意味です。
もう一つの理由は滞在時間です。通過されるだけの地域では、旅行者はお金を落としません。周遊ルートの中で泊まる場所・食べる場所・体験する場所が揃っていれば、地域内の消費が増え、着地型観光の受け皿にもなります。
地域の事業者が周遊ルートに参加する方法
大きな協議会に入らなくても、一つの施設から始められます。手順の目安は次のとおりです。
- 自分の施設の「所要時間」と「前後のつながり」を書き出す。 体験なら何時間か、何時に始められるか、最寄りの駅や宿からどう来るか
- 近隣で組める相手を3〜5軒探す。 宿・食事処・別ジャンルの体験など、半日〜1日で回れる範囲で。互いに顔が見える相手が望ましい
- 移動手段を確認する。 路線バスの本数、タクシーの台数、送迎の可否。ここが空白だとルートは成立しない(詳しくは二次交通)
- 「半日モデル」「1泊2日モデル」を1枚にまとめる。 時刻・移動・料金の目安・予約先を表にする
- 地域のDMO(観光地域づくり法人)や観光協会に持ち込む。 既存の広域ルートやモデルコースに差し込めないか相談する
まとめた行程は、そのまま旅行会社への提案資料や自社サイトのモデルコースにも使えます。料金はそれぞれの事業者が自分の分を提示し、互いに案内し合う形(相互送客)にしておくと、他社の商品をまとめて売ることによる旅行業法上の問題も避けやすくなります。
現場でよくある失敗
観光地を10か所並べた「周遊マップ」を作ったが、旅行会社からは一度も問い合わせが来なかった。
こうした声は珍しくありません。原因の多くは、移動時間と営業時間が書かれていないことです。地図上で近く見えても、実際には車で40分、バスは1日3本、体験は前日までの予約制――となると、旅行会社は組めません。周遊ルートは「見どころの一覧」ではなく「実際に回れる時刻表」であることが求められます。
もう一つは、詰め込みすぎです。移動ばかりで各地の滞在が短い行程は、旅行者の満足度も地域に落ちるお金も小さくなりがちです。1日に2〜3か所、移動は短く、一か所で過ごす時間を長く、という密度から組み始めると無理がありません。
最後に、冬季休業や定休日の情報が共有されていないこと。ルートの中の一軒が休みなら、行程全体が崩れます。年間の営業カレンダーを、組む相手同士で共有しておくことが運用の前提です。
似た言葉との違い
モデルコースは、周遊ルートを旅行者向けに具体的な時刻と順番で示したものです。周遊ルートが「地域のつながり方の設計」だとすれば、モデルコースはその「見本の旅程」にあたります。
ツアー(パッケージツアー)は、旅行会社が宿泊や移動を手配して料金を付けて販売する商品です。周遊ルートやモデルコースを示すこと自体は情報提供であり、販売ではありません。他社の宿泊や交通を組み合わせて料金を一本化して売る場合は、旅行業登録が必要になることがあるため、事前に都道府県の旅行業担当課などで確認してください(旅行業法と旅行業登録も参照)。
ゴールデンルートは、東京〜京都・大阪を結ぶ初訪日の定番行程を指す通称で、国が認定したものではありません。地方の周遊ルートは、これと競うというより、2回目以降の訪日や長期滞在の旅行者に「次はここ」と示す役割を持ちます。
よくある質問
周遊ルートに入るには、協議会やDMOの会員になる必要がありますか?
必須ではありません。旅行会社やOTAの商品に組み込まれるかどうかは、行程として成立する情報(所要時間・移動手段・料金・予約先)が揃っているかで決まります。ただし、既存の広域ルートやモデルコースを持っているのは多くの場合DMOや観光協会なので、そこに情報を届けておくと組み込まれる機会は増えます。
うちは体験が一つしかありません。それでも周遊ルートに関われますか?
関われます。周遊ルートは一つひとつの施設を「部品」として組み合わせるものなので、むしろ単独の小さな体験は差し込みやすい部品です。所要時間と開始可能な時刻、最寄りの宿や駅からの移動手段をはっきり書いておくことが、組み込まれるための最低条件です。
近隣の宿や体験をまとめてセット料金で売ってもいいですか?
他社の宿泊や運送を組み合わせて一つの料金で販売すると、旅行業法の登録が必要になる場合があります。各事業者がそれぞれ自分の料金を提示して互いに案内し合う形なら、原則として問題になりにくいとされています。セット販売を考える場合は、都道府県の旅行業担当課や観光庁の窓口に事前に確認してください。
国の広域観光周遊ルートに選ばれていない地域は不利ですか?
旅行者や旅行会社は、国の認定の有無で行き先を選ぶわけではありません。認定ルートは広域で情報発信する枠組みとして役立ちますが、選ばれるかどうかは、実際に回れる行程と受け入れ体制が整っているかどうかで決まります。自分の地域がどの広域の物語に近いかを知り、その文脈で説明できるようにしておくと有利です。
関連する用語
出典・参考
- 国土交通省 中国運輸局「広域観光周遊ルート形成促進事業」 — 事業の目的(テーマ性・ストーリー性、滞在日数に合わせた周遊)、協議会が策定する計画を国土交通大臣が認定する仕組み、認定11ルートの名称と認定日(2015年6月12日・2016年6月14日)(p.41)
- 観光庁「広域周遊観光促進のための専門家派遣事業」 — 広域周遊観光の促進に取り組む地域(登録DMO・候補DMO・地方公共団体)への専門家派遣
公開 2026.10.12 / 執筆: 一般社団法人Kachisai 事務局。定例会で会員事業者から受けた質問と、上記の一次情報をもとに作成しています。内容の誤りや古くなった情報はお問い合わせからお知らせください。
言葉の意味は分かった。次は、自分の事業で使えるようにしたい方へ。
Kachisaiは、地域の観光事業者が集まり、コンテンツづくりから旅行会社・OTAとの取引まで、専門家と仲間と一緒に手を動かすコミュニティです。毎週日曜20時にオンラインで無料説明会を開いています。
