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旅行保険と賠償責任保険Liability Insurance

読み: りょこうほけんとばいしょうせきにんほけん別名: 賠償責任保険・旅行保険・海外旅行保険・インバウンド旅行保険・体験事業者の保険・Travel Insurance

旅行保険は、旅行者が自分の病気・けが・持ち物の損害に備えて入る保険。賠償責任保険は、事業者が業務中の過失で参加者や第三者に損害を与え、法律上の賠償責任を負ったときに備えて入る保険。補償する相手も、入る人も異なる。

この用語の要点

  • 旅行保険は「旅行者が自分のために」、賠償責任保険は「事業者が相手への責任のために」入る。片方があればもう片方は不要、という関係ではない
  • 観光庁の『旅行安全マネジメントのすすめ』は、旅行会社が手配先を選ぶときの確認事項として「賠償保険に加入している旅行サービス提供機関を選定しているか」を挙げている
  • 観光庁の調査(2023年10月〜2024年2月)では、訪日客の民間医療保険の加入率は約73%。裏を返すと、保険に入っていない旅行者も一定数いる
  • 旅行会社の企画旅行には、標準旅行業約款に基づく旅行会社の責任と特別補償の仕組みがあるが、それで現場の事業者の備えが不要になるわけではない
  • 補償範囲・金額・対象となる活動は保険商品ごとに違う。加入の要否や内容は、保険会社・代理店や所管の窓口に確認する

2つの保険は「誰が、誰のために」入るかが違う

「保険には入っていますか?」と聞かれたとき、旅行者側の保険の話なのか、事業者側の保険の話なのかで、意味がまったく変わります。

種類入る人備える損害例
旅行保険(海外旅行保険・インバウンド旅行保険)旅行者旅行中の自分の病気・けが、持ち物の損害など体験中に転んで骨折し、病院にかかった費用
賠償責任保険事業者業務中の過失で参加者や第三者に損害を与え、法律上の賠償責任を負ったとき用具の点検不足で参加者がけがをし、損害賠償を求められた

旅行保険は旅行者の財布を守るもの、賠償責任保険は事業者の事業を守るもの、と考えると整理しやすくなります。

事業者が加入を検討する保険には、賠償責任保険のほかに、参加者のけがに対して事業者の過失の有無を問わず一定額を支払う傷害保険の型もあります。商品名や補償の範囲、対象になる活動(水上・高所・乗り物など)は保険会社ごとに異なるため、自分の体験内容を具体的に伝えたうえで、代理店に対象かどうかを確認するのが出発点です。

旅行会社はなぜ保険加入を確認するのか

地域の事業者が旅行会社やランドオペレーターと取引を始めると、プロダクトシートや取引先登録の書類で保険の加入状況を聞かれることがあります。これは旅行会社側にも、手配先を安全面で選ぶ責任があるからです。

観光庁が旅行業界向けにまとめた『旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ』では、企画旅行の安全確保のポイントの一つに「安全な旅行サービス提供機関の選定」が挙げられています。同資料に載っている「ツアーオペレーター業務に係る安全マネジメント調査票」の記入例には、確認事項として次のような問いが並んでいます。

  • 許認可が必要な事業の場合、営業許可を取得している提供機関を選んでいるか
  • 安全確保体制のある提供機関を選んでいるか
  • 賠償保険に加入をしている提供機関を選んでいるか
  • 事故発生時の連絡体制が十分な提供機関を選んでいるか
  • 過去一定期間の事故の有無・内容を確認しているか

また国内・訪日旅行の安全調査項目として、年齢や健康状態などの受け入れ基準を明確にしているか、緊急時の連絡体制を構築し訓練をしているか、外国語で避難経路を示せるか、といった点も挙げられています。

つまり、旅行会社から見ると保険は「安全に任せられる相手か」を判断する材料の一つです。未加入だと取引できないと一律に決まっているわけではありませんが、聞かれたときに即答できない事業者は、提案の候補から外れやすくなります。

訪日客の保険加入の実態

インバウンドの現場では、旅行者側の保険の状況も知っておく必要があります。

観光庁が国内5空港で行った「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」(2023年10月〜2024年2月、回答3,069件)では、民間医療保険の加入率は約73%、訪日中に病気やけがをした人は約4%でした。入国後でも加入できるインバウンド旅行保険の加入率は5%にとどまっています。

JNTO(日本政府観光局)は旅行者向けの案内で、十分な補償のある民間医療保険への加入を勧めています。示されている医療費の試算例では、自転車との衝突による気胸・肋骨骨折で手術・19日入院・帰国移送をした場合が750万円、急性心筋梗塞で手術・45日入院・帰国移送をした場合が1,000万円です。また、医療費の不払い歴がある訪日外国人は、以降の入国を拒否される可能性があると注意喚起しています。

事業者にとってのポイントは、参加者が保険に入っている前提で動かないことです。予約確認の段階で、旅行保険への加入をお願いする一文を添えておくと、万一のときの病院での支払いトラブルを減らせます。

旅行会社の補償と、事業者の責任の関係

旅行会社が募集する企画旅行(パッケージツアーなど)では、観光庁が定める標準旅行業約款に、旅行会社側の責任と補償の仕組みが書かれています。

  • 第27条(当社の責任): 旅行会社または手配を代行させた者が、故意または過失で旅行者に損害を与えたときは、旅行会社が賠償する
  • 第28条(特別補償): 旅行会社の責任の有無を問わず、企画旅行の参加中に生命・身体・手荷物に受けた一定の損害について、特別補償規程に定める補償金・見舞金を支払う

ここで誤解しやすいのは、「ツアーで来た客なら、事故があっても旅行会社の補償で済む」と考えてしまうことです。特別補償はあらかじめ決められた額の補償であり、事故の原因が現場の設備や運営にあった場合に、事業者側の責任が問われることはあり得ます。どこまでが誰の責任になるかは、旅行会社との契約内容と事故の事実関係によって変わります。

なお、海外の旅行会社が販売するツアーは、その国の約款や法律で動いていることがあります。取引の際は、事故時の責任分担を契約書や確認書で一度すり合わせておくと安心です。

体験事業者が準備しておくこと

1. 加入状況を一枚にまとめる

  • 保険の種類(賠償責任保険・傷害保険など)と保険会社名
  • 補償の限度額と、対象になる活動の範囲
  • 保険期間(更新月)

旅行会社やOTAの担当者から聞かれたときに、この一枚をそのまま渡せる状態にしておきます。プロダクトシートに「保険加入:有(賠償責任保険)」と一行入れておくだけでも、確認の往復が減ります。

2. 保険の外側にある備えも書面にする

保険は事故が起きた後の備えです。旅行会社が同時に見ているのは、事故を起こさないための体制です。

  • 参加条件(年齢・健康状態・体重制限など)
  • 天候による中止基準
  • 緊急時の連絡先と、最寄りの医療機関
  • 外国語での注意事項と同意書
英語の同意書にサインをもらっているから、何かあっても大丈夫ですよね?

現場でよく出る質問ですが、同意書は注意事項を伝えた記録として役に立つ一方、事業者の過失による責任まで消せるとは限りません。同意書の文面と効力は、保険会社や専門家に確認しておくのが安全です。

3. 内容が変わったら見直す

新しい体験を追加した、使う道具や場所を変えた、受け入れ人数を増やした、といったときは、今の保険の対象に入っているかを代理店に確認し直します。

よくある質問

体験事業者は賠償責任保険への加入が法律で義務づけられていますか?

業種や使う許認可によって、加入が条件になっている場合とそうでない場合があります。すべての体験事業に一律の義務があるとは言えないため、自分の事業に関わる業法や許認可の窓口、保険会社・代理店に確認してください。義務でなくても、旅行会社との取引では加入状況を確認されることがあります。

参加者が海外旅行保険に入っていれば、事業者の保険はいりませんか?

旅行者の保険は旅行者自身のけがや病気の費用に備えるもので、事業者が負う賠償責任を肩代わりするものではありません。参加者の保険で治療費が支払われた後に、事故の原因が事業者側にあるとして賠償を求められることも考えられます。両者は役割が違うので、別々に考えるのが基本です。

旅行会社から保険証券のコピーを求められたら、出してよいですか?

取引先の安全確認として求められること自体は珍しくありません。ただし証券には契約者情報や保険料などが載っているため、必要な項目(保険の種類・限度額・保険期間)だけを示した加入証明書を保険会社や代理店に発行してもらえるか確認すると、余計な情報を渡さずに済みます。

外国人の参加者がけがをしたとき、まず何をすればよいですか?

最初は救護と119番通報、近くの医療機関への連絡です。その後、予約経路の旅行会社やOTA、自社の保険会社に連絡し、時刻・状況・対応を記録に残します。JNTOは外国人旅行者向けに医療機関の探し方などの案内を出しているので、事前に場所を把握しておくと慌てずに済みます。

出典・参考

  1. 観光庁「旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ」 — 企画旅行の安全確保6項目(p.4)、国内・訪日旅行における安全調査項目(p.17)、ツアーオペレーター業務に係る安全マネジメント調査票の確認事項「賠償保険に加入をしている旅行サービス提供機関を選定していますか」(p.18)
  2. 観光庁「標準旅行業約款」(令和8年3月9日改正反映) — 募集型企画旅行契約の部 第27条(当社の責任)・第28条(特別補償)(p.8)
  3. 観光庁「訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査等を行いました」(2024年6月28日) — 調査期間(令和5年10月〜令和6年2月)、民間医療保険の加入率約73%、病気・けがの割合約4%、インバウンド旅行保険の加入率5%、回答3,069件
  4. JNTO「日本を安心して旅していただくために―具合が悪くなったときに役立つガイド」 — 民間医療保険の加入推奨、医療費の試算例(750万円・1,000万円)、医療費不払い歴による入国拒否の可能性

公開 2026.10.19 / 執筆: 一般社団法人Kachisai 事務局。定例会で会員事業者から受けた質問と、上記の一次情報をもとに作成しています。内容の誤りや古くなった情報はお問い合わせからお知らせください。

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